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名古屋高等裁判所 昭和45年(ネ)116号 判決 1976年11月30日

控訴人

中西喜平

右訴訟代理人

石原金三

外五名

被控訴人

松崎賢治

右訴訟代理人

岩田孝

外二名

主文

原判決を取消す。

被控訴人の従来の請求ならびに当審で追加された第二次請求は、いずれも棄却する。

訴訟費用は差戻前の第一、二審、上告審および差戻後の当審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人が昭和三四年五月二五日訴外会社より、金一二万五、〇〇〇円を、弁済期昭和三五年三月二四日と定めて借受け(以下、本件貸金という)、同時に右債務の支払を担保するため、控訴人所有にかかる本件土地を訴外会社に譲渡し、占有改定により引渡をするとともに、存続期間を右の弁済期までとする使用貸借契約をなす旨のいわゆる譲渡担保契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

二<証拠>によると、次の事実が認められる。

(一)  本件貸金契約にあつては、利息月六分(金一〇〇円につき一日金二〇銭)、遅延損害金月一割二分(金一〇〇円につき一日金四〇銭)の約束であり(ただし、公正証書上では、遅延損害金年三割六分―金一〇〇円につき一日金九銭八厘とされている)、控訴人は貸付日である昭和三四年五月二五日に月六分の割合による一か月分の利息を前払いした。

(二)  前記譲渡担保ならびに使用貸借契約については、次のような約束がなされていた。

1  債務者は、他の債務のため差押、仮差押、仮処分を受けまたは競売、破産もしくは和議の申立があつたときなど、その他本契約各条項の一に違背したときは、期限の利益を失い、なんらの手続を要しないで、直ちに全債務を完済する。

2  債務者が前記により期限の利益を失つたときは、使用貸借はその効力を失う。

3  債務者は本件土地をその性質によつて定まつた用方に従つて使用収益するほかは、譲渡、質入その他一切の処分をすることができない。また、債権者は債権担保の目的を達成するためでなくてはこれを処分することができない。

4  債務者が本件債務を完済したときは、本件土地の使用貸借はその効力を失い、本件土地の所有権は当然控訴人に復帰する。

5  控訴人が債務を完済しないうちに右の使用貸借契約の期間が満了したとき、すなわち右弁済期が経過したときは、訴外会社において、担保の目的である本件土地を法定の手続によらず任意売却して債権の弁済に充当することができ、かつ、控訴人はその売却の時期、方法、価格等一切につき異議を述べない。そして、その売得金が債権額を超過するときは、その超過額を控訴人に返還し、また、不足するときは、控訴人はその不足額を訴外会社に支払う。

(三)  もと本件土地は、控訴人が旧住宅公団から譲受け、その地上に木造瓦葺平屋建居宅床面積39.66平方メートル(一二坪。以下、本件地上建物という)を所有して、そこに居住していたが、名古屋市中島新町土地区画整理組合の土地区画整理事業施行地区内の特別処分土地使用区域(同組合が昭和二五年一一月二〇日耕地整理法第三〇条第二項の処分を行なうための使用区域に指定した土地。もとの表示名古屋市中川区中島新町惣造屋敷二五番中島新町住宅六一号敷地一、土地四三坪八合九勺九)で、未登記の土地であつたもので、昭和三六年三月二九日に土地区画整理事業が完成したものである。

(四)  右のような事情であつたため、前記の契約当時、本件土地の登記簿が閉鎖中であり、譲渡担保契約がなされても、登記簿上所有名義は依然控訴人名義のままで、訴外会社に所有権移転登記がなされなかつた。そこで、訴外会社は右契約と同時に、本件土地が控訴人所有であることを証明するものとして、控訴人から特別処分土地使用区域指定書(甲第六号証)を受取り、また、控訴人と山岸美秋(訴外会社代表者)の連名で、昭和三四年五月二三日付により前記組合長あてに、「本件土地を担保として山岸美秋から金一五万円を借受けたにつき、今後山岸の承諾なくして所有者の名義変更その他権利に関する一切の行為はしないので、前記組合においても承知されたい旨要請し、前記組合はこれを承認した」旨を記載した名義変更停止願(甲第一〇号証)を受取つた。訴外会社としては、あくまでも本件土地を控訴人から担保として提供するということで本件貸金をなしたもので、契約存続中に登記ができるようになれば、訴外会社のため抵当権設定登記をするということで甲第一〇号証の交付を受けたが、同年五月二五日には、右のような抵当権設定登記もまた所有権移転登記も一切できないということで、金銭貸借契約公正証書(甲第四号証)の作成を公証人に嘱託し、前記(二)の約定を記載した(以上の事情にあつたため、右公正証書には、登記に関する約定はなんら定められなかつた)。

(五)  本件地上建物は、前記のとおり、控訴人が旧住宅営団から本件土地とともに譲受け、そこに居住していたものであるが、控訴人は昭和三〇年二月ころ訴外株式会社中島商事(以下、中島商事という)から金借して、右建物をその担保に供し、売買予約を原因として所有権移転請求権保全仮登記を経ていたが、同三三年一〇月右建物に対し訴外大和生命保険相互会社(以下、大和生命という)から仮差押があつて、その旨の登記がなされ、同三四年二月訴外丹陽商事株式会社(以下、丹陽商事という)に右仮登記移転の付記登記がせられ、その直後、丹陽商事から競売法による競売申立があり(まもなく取下)、同年三月名古屋市から滞納処分による差押があり、同年八月訴外岡本貢に右仮登記移転の付記登記がせられた(その間に中島商事の控訴人に対する右売買予約上の権利は、丹陽商事を経て岡本に譲渡せられたと推測せられる)。訴外会社は同年末ころ、本件貸金債権確保の目的で、岡本から控訴人に対する債権の譲渡を受け、同三五年一月にいたつて、右仮登記移転の付記登記を経て、控訴人を被告として、愛知中村簡易裁判所に、右建物につき、所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、同年五月一二日訴訟上の和解が成立し、控訴人は訴外会社に対し金一〇万五、〇〇〇円の支払義務のあることを認め、これを昭和三五年七月一〇日限り金五万円(ただし、内金一万円の限度において同年八月一〇日までの遅滞を認める)、同年八月一〇日限り金五万五、〇〇〇円を支払う。右分割金の支払を一回でも怠れば、訴外会社は右仮登記に基づき直ちに右建物につき所有権移転登記を受けることができ、控訴人は同年八月二〇日限り訴外会社に対し右建物を明渡す旨の定めがなされた。

(六)  ところで、控訴人は本件貸金債務をその弁済期までに完済せずして使用貸借期間が満了し、右期限経過後である昭和三五年三月二七日元金二万五、〇〇〇円および利息金七万二、八七五円、同年五月六日利息金二、〇〇〇円を支払つたのみで、(控訴人が元金の内金二万五、〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない)、その余の支払を怠つたため、訴外会社は昭和三五年九月七日、前記公正証書の約定に基づくとして、右の債権の弁済に充てるため、訴外加藤信雄を通じ、本件土地と本件地上建物を被控訴人に任意売却する旨の契約をした(本件建物は、控訴人が前記和解に基づく債務を履行しなかつたため、前記和解に基づき、昭和三五年九月七日当時訴外会社の所有となつていた)。訴外会社は金融業を目的とする会社であり、前記一部弁済を受けた後、右本件土地売却時まで月二、三回は控訴人に催促し、弁済をしなければ本件土地を処分する旨通告していたが、弁済の見込のないことが判つたため、かねて知合の加藤信雄を通じて売却することとしたものであり、訴外会社としては、本件貸金債権の弁済を得るため公正証書の約定に基づいて売却処分することにしたもので、本件土地に対する執着はなかつた。

(七)  右売却契約の際、被控訴人は義兄の前記加藤信雄(妻の兄に当たる)を通じて、前記公正証書を受取り、これに基づいて訴外会社の説明を受け、本件土地は控訴人の所有であつたもので、目下土地区画整理事業施行中の土地であり、右事業が完了するまでは所有権移転登記はできないが、右事業が完了すれば確実に登記ができる態勢であること、売却代金は本件土地および地上建物ともで金一五万円(その内訳は定めず)であるが、差押などがなされており、諸費用を含め総額金三〇万円位は控訴人の負担する金額であるといわれ、控訴人はそのころ右代金一五万円の支払をしたほか、後記のとおり、控訴人をして右建物を明渡させるに必要な費用、大和生命の仮差押登記抹消に関する必要な費用、訴外会社の控訴人に対する訴訟費用の一部などの諸費用として少なくとも金一二万円を出費した。そして、被控訴人は本件土地は担保物件であるとの説明を受け、担保にとつたものでも自由に売却することができるといわれ、右のとおりこれを買受けることとしたものである。

(八)  右任意売却の契約のなされた後である昭和三六年四月二〇日頃、控訴人は本件地上建物明渡の強制執行を受けてこれを明渡し、その後に被控訴人が右建物に入居し、さらに、右建物につき、名古屋法務局古沢出張所昭和三六年七月一七日受付により同年六月四日売買を原因として、被控訴人のため所有権移転登記がなされた。

(九)  ところが、本件土地については、前記のとおり、土地区画整理事業の施行中であつたため、すぐには被控訴人に所有権移転登記ができなかつたが、その後昭和三六年三月二九日土地区画整理事業が完成した後になつても、控訴人が本件土地に柵を作つたりして、これに応じない態度であつたので、訴外会社は柘植欧外弁護士に依頼して事件の解決を委任し、同弁護士は昭和三七年八月一〇日債権者代理人として、名古屋地方裁判所に対し、本件貸金債権残金(元金一〇万円および昭和三五年三月二五日から同三七年七月三日までの金一〇〇円につき一日金九銭八厘の割合による遅延損害金八万四、二八〇円)の弁済を得るため、本件土地に対する強制競売の申立をなし、同月一一日競売手続開始決定がなされ(その際、同月一三日右裁判所の嘱託により、本件土地につき控訴人名義に所有権保存登記がなされた)、そのころ控訴人にその旨の通知がなされた。

(一〇)  そこで、控訴人はその頃柘植弁護士のところへ赴き、訴外会社に対し債務をまけてもらつて弁済して事件を解決しようと交渉したところ、同弁護士は訴外会社代表者山岸美秋を呼んで解決しようとしたが、山岸は定められた日に参集せず話合ができなかつた。そのため、控訴人は同弁護士から、「競売期日もきまつておりもう仕様がないから、債務をまけるとかまけんとかいつているより全額払いなさい。」といわれ、昭和三七年一〇月一一日、名古屋法務局に金一九万七、一七三円(内訳、残元金一〇万円およびこれに対する昭和三五年三月二五日から同三七年一〇月一一日まで九二三日間の金一〇〇円につき一日金九銭八厘の割合による遅延損害金九万一、三三六円右元利金合計金一九万一、三三六円のほか右競売の執行費用金五、八三七円)を弁済供託した。

(一一)  控訴人は前記のとおり弁済供託したが、約定の利息・遅延損害金の利率はいずれも利息制限法所定の範囲を超過しているので、その超過分を元本に充当すると、その残債務は次のとおりとなる。

1  弁済

(1) 昭和三四年五月二五日貸付時、元金一二万五、〇〇〇円に対し、月六分の割合により一か月分の利息金七、五〇〇円を前払いし、さらに、昭和三五年三月二七日に、同三四年六月二五日から同三五年三月二四日まで九か月分の利息金六万八、一五〇円を支払い、結局、昭和三四年五月二五日から同三五年三月二四日まで一〇か月分の利息合計金七万五、六五〇円を支払つた。

(2) 昭和三五年三月二七日、元金の内金二万五、〇〇〇円ならびに残元金一〇万円に対し、昭和三五年三月二五日から同年四月二〇日までの遅延損害金四、七二五円を支払い

(3) 昭和三五年五月六日、残元金一〇万円に対し、昭和三五年四月二〇日から同年五月五日までの遅延損害金二、〇〇〇円を支払つた。

2  利息制限法所定の範囲を超過した分を元本に充当すると、別紙計算表のとおり、昭和三五年五月五日現在における控訴人の残債務は残元金三万八、一三一円である。

(一二) 右によると、控訴人が前記のとおり供託をした昭和三七年一〇月一一日における残債務は、残元金三万八、一三一円およびこれに対する昭和三五年五月六日から同三七年一〇月一一日まで年三割六分の割合による合計金七万二、六三九円である。

38,131円+34,508円=72,639円

しかるに、実際の供託額は金一九万七、一七三円であり、その内訳は元利金一九万一、三三六円のほか執行費用五、八三七円であるから、控訴人は優に残債務を超過する金額を供託したものであることは明らかである。

(一三)  その後、控訴人は昭和四〇年二月ころ本件土地の道路に面した部分に新たに建物建築にとりかかろうとして、名古屋市に建築確認申請をし、同年三月には地上の花や庭木を抜き、柵や門をこわし、測量や地鎮祭をし、被控訴人に対し本件土地は控訴人の所有である旨主張したので、被控訴人は昭和四〇年三月二六日控訴人に対し仮処分申請をし、控訴人にその決定が送達された。また、本件土地に対する前記強制競売については、債権者代理人柘植弁護士が辞任し、訴外会社は昭和四〇年三月二三日その申立を取下げた。このような経過のもとで、被控訴人は昭和四〇年四月二二日本訴を提起した(本件訴状添付の固定資産評価証明書によれば、昭和四〇年二月名古屋市長決定によれば、本件土地の評価額は金四八万二、七九〇円であることが明らかであるので、これに徴すると、昭和四〇年当時の時価は金一二〇万円を下らないものであり、前記供託のなされた昭和三七年一〇月当時の時価は金八四万円を下らないものと認められる)。

以上の事実が認められ、<る。>

三右認定の事実によれば、訴外会社と控訴人の間では、本件土地につき本件貸付債権担保のための譲渡担保契約が締結されたものであり(前記認定の事情により所有権移転登記がなされなかつた)、特段の事情が認められないので、いわゆる帰属清算型に属するものと解される。すなわち、この場合、債務者が履行遅滞となつたときは、債権者は目的不動産を処分する権能を取得し、これを適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰属させるという換価方法により、その評価額から自己の債権の弁済を得るのであり、評価額が債権額および換価に要した相当費用の合計を超えるときは、超過分を清算金として債務者に交付すべきであり、他方、債務者は清算金の支払を受けるまで登記手続の履行ないし引渡を拒むことができるのであつて、清算金の支払と同時履行の関係に立つものである。そして、このような関係にある場合、単に弁済期が経過したというだけで所有権が債権者に移転するものではないとするのが相当である。もつとも、本件にあつては、「本件貸金債務の支払を担保するため、控訴人所有にかかる本件土地を訴外会社に譲渡する」とか、「弁済期が経過したときは、訴外会社において、本件土地を法定の手続によらないで任意売却して債権の弁済に充当することができる」(すなわち、所有権の内容としての処分権に基づく任意売却)とか、「控訴人が本件貸金債務を完済したときは、本件土地の使用貸借はその効力を失い、本件土地の所有権は当然控訴人に復帰する」などの約定がなされ、所有権が債権者に移転する形式をとつているが、それは債権者と債務者の双方が合意して、そのような形式の担保権を設定したものであつて、所有権が一応債権者に移転し、債務者の受戻権が残つているものと解すべきでなく、本件においては、清算金のいわゆる後払い的特約がされているにすぎないものである。そうすると、このような譲渡担保の関係にあつては、同時履行の関係を否定することはできないのであつて、少なくとも、債権者が清算金の提供をして初めて所有権が債権者に移転し、その時までは債務者は所有権を保有し、弁済によつて債務を消滅させることができるものと解すべきである。

四ところで、本件にあつては、前記認定事実からも明らかなように、訴外会社が正当な評価清算をして控訴人に清算金を交付したこと、または少なくとも清算金の提供をした事実は認め難く、単に弁済期を経過したというだけであるから、本件所有権はなお債務者である控訴人のもとに保有されているものと解すべきである。そして、このような清算未了の間にあつて、訴外会社は前記認定の事実より明らかなように、受領拒絶の態度が明白で、提供をしても弁済を受領しない態度を事前に示していたのであるから、控訴人のした弁済供託は有効ということができ、右供託により控訴の債務は消滅に帰したものである。

五次に、被控訴人は前記認定のとおり、本件土地の所有権が控訴人のもとに保有されている間にあつて、訴外会社からこれを譲受けたものであるが、このような場合、債権者が清算を完了して所有権を取得したとして本件土地を善意の第三者に譲渡したときは、債務者はこれを取戻し得ないものである。しかるに、前記認定によれば、被控訴人が善意であるとは認め難く、かえつて、悪意であることが認められる。そうすると、被控訴人は買主として売買契約上の権利を取得し、本件土地の所有権を得たものとはなし難い。

六以上の次第で、被控訴人の従来の請求ならびに当審における第二次請求は、いずれもその余の点を判断するまでもなく理由がないから棄却すべきであり、これと結論を異にする原判決は相当でないからこれを取消し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(植村秀三 西川豊長 寺本栄一)

(別紙)<省略>

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